【薬剤師監修】なぜ更年期になると太りやすくなるのか

2025.11.18
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「お風呂上りに鏡を見ると、少しお腹が出てきたように感じる」

「若い頃と同じ量を食べているのに、なぜか体重が増えてきた」

このような体の変化は、更年期を迎えた女性が抱える悩みの一つです。

なぜ更年期になると太りやすくなるのでしょうか?

この記事では、更年期に起こる体の変化を知り、今日からできる対策をお伝えします。

更年期に太りやすくなる原因

更年期に太りやすくなったと感じる原因は、女性ホルモンであるエストロゲンの低下と体のエネルギー消費量の減少です。年齢によるこれらの変化が、体型や体重にどのように影響するのか見ていきましょう。

エストロゲンが内臓脂肪に与える影響

女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、自律神経を安定させたり、コレステロールのバランスを整えたり、女性の心と体の健康を支えています。

更年期を迎えてエストロゲンが低下してくると、更年期症状と言われるさまざまな不調が現れます。代表的な症状としては、のぼせ、発汗、気分の落ち込みなどです。

エストロゲンの低下は、内臓脂肪の蓄積にも影響しています。エストロゲンが低下すると内臓脂肪が増加しやすくなるため、若い頃に比べて脂肪の付き方も変化してきます。[1]

内臓脂肪は、胃や腸などの内臓の周りに蓄積される脂肪です。更年期に内臓脂肪が増えると、お腹周りがぽっこりと目立つ体型になりやすくなります。

エネルギー消費量の低下による体重増加

更年期に太りやすくなったと感じるもう一つの原因は、年齢とともに体のエネルギー消費量が低下するためです。

体の1日のエネルギー消費量は、以下のように大きく3つに分けられます。[2]

 

    • 基礎代謝量(約60%):呼吸や体温の維持など、生命を維持するために消費されるエネルギー

 

    • 身体活動量(約30%):運動や家事など、体を動かすことで消費されるエネルギー

 

    • 食事誘発性熱産生(約10%):食べたものを消化、吸収する際に熱として消費されるエネルギー

 

年齢が高くなると筋肉量が減るため、基礎代謝量が低くなることがわかっています。[3]

また、日常生活で運動量や活動量が減るため身体活動量も減少しがちです。この2つのエネルギー消費量が年齢とともに減るため、体が1日で消費するエネルギーの合計が少なくなります。摂取したエネルギーよりも消費されるエネルギーが少なくなると、余ったエネルギーは脂肪として蓄積され、体重増加につながります。

更年期に太る人と太らない人の違い

 

なぜ更年期になっても太らない人がいるのでしょうか?

それは、生活習慣と更年期症状(のぼせ、発汗、気分の落ち込みなど)の現れ方に違いがあるからです。

年齢とともに基礎代謝量は低下しますが、適度な運動を続けることで筋肉量を維持し、低下した代謝を補えます。また、食生活を見直し、代謝に見合った食事量に調節することで、体重を適切に管理できます。

一方、更年期症状の強さや現れ方は個人差が大きく、症状もさまざまです。ストレスで過食になって太る場合や、胃腸の働きが弱まって食欲がなくなりやせてしまう場合もあります。

体重の変化には、生活習慣や更年期症状の現れ方が深く関係しています。

「更年期に太る」から抜け出す3つの対策とは

更年期太りを改善するためには、低下した1日のエネルギー消費量を増やすことがポイントです。そのためには、食事、運動、睡眠による生活習慣を見直してみましょう。ここでは、更年期の体の変化に合わせた3つの対策を紹介します。

食事で意識するポイント

基礎代謝量は、1日のエネルギー消費量の約6割を占めます。筋肉量を増やして基礎代謝を高めれば、効率的なエネルギー消費につながります。そのためには、筋肉の材料であるタンパク質を含む食品を意識して摂取するようにしましょう。例えば、鶏むね肉、魚、豆腐、卵などが挙げられます。タンパク質を意識することで、更年期に低下しがちな筋肉量の維持をサポートします。

さらに、年齢とともにエネルギー消費量は低下するため、摂取カロリーを意識することも大切です。揚げ物や脂身の多い肉には脂質が多く含まれます。調理方法を「揚げる」から「蒸す」「ゆでる」「焼く」に変えると脂質の摂取を抑えられます。

食事は規則正しい時間に3食バランス良くとり、急激な食事制限は避けましょう。

効果的な運動習慣

基礎代謝の源である筋肉量を維持・向上させるには筋力トレーニングが効果的です。
健康づくりのための成人における筋力トレーニングの頻度は、週に2〜3回とされています。大きな筋肉(胸、背中、足など)をまんべんなく鍛えることで、筋力トレーニングの効果が高まります。[4]
筋力トレーニングの方法は以下の図を参考にしてください。
(引用元“厚生労働省 成人を対象にした運動プログラム”)[5]
筋力トレーニングで代謝を上げ、有酸素運動を合わせて行うことで効率的にエネルギー消費量を高めます。有酸素運動はウォーキングや水中での歩行などです。運動時間の目安は1回20〜30分、週2回程度から始めてみてください。[5]
体調がすぐれない日は無理せずに休み、完璧を目指すよりも、無理のない範囲で継続することを意識しましょう。

良質な睡眠の確保

更年期を迎えると自律神経の乱れにより、寝つきが悪くなったり、途中で目が覚めたりといった睡眠トラブルが出やすくなります。睡眠不足が続くと、食欲をコントロールするホルモンバランスが崩れ、過食につながることがわかっています。[6]

食べ過ぎを防ぐためにも、質の高い睡眠をとることが大切です。

日中に適度な運動を取り入れることで、程よい疲労感が得られ、寝付きが良くなり睡眠の質が高まります。寝る前はスマートフォンやパソコンのブルーライトを避け、リラックスできる環境を作りましょう。軽いストレッチで体の緊張を緩めるのもおすすめです。

医療機関での専門的なサポート

生活習慣を見直しても体重の改善が見られない場合や、更年期症状がつらい場合は、医療機関で専門的なサポートを受けるのも一つの方法です。ここでは、医療機関で使用される漢方薬とホルモン治療の特徴について解説します。

漢方薬

漢方薬は、体質を考慮し、健康の維持をサポートするものです。

例えば、一部の漢方薬では、体を温めて熱を発散させ、代謝を促す目的で使用されることがあります。[7]

また、更年期症状を緩和する漢方薬を用いて、女性ホルモンのバランスの乱れによる不調を改善し、それに伴う過食を間接的に防ぎます。

漢方薬は体質によって効果が異なるため、まずは医師や薬剤師に相談することが大切です。

ホルモン治療

ホルモン治療とは、低下した女性ホルモンであるエストロゲンを補充する治療法です。

ホルモン治療は、更年期症状の緩和と骨粗しょう症や動脈硬化などのリスクを減らします。[8]

更年期症状が緩和されると、体調がよくなり活動的になるため、結果的に運動量が増え、体重管理がしやすくなります。

「ホルモン治療で太る」と言われることがありますが、現時点でホルモン治療が原因で太るという明確な医学的根拠はありません。[9]

更年期の症状がつらい場合は、一人で悩まず、婦人科や更年期外来などを受診して相談してみてください。

 

体の変化に向き合い、次のステップへ

更年期の体重変化は、今までの生活習慣を見直す良い機会です。「できることから始めてみる」という気持ちで、少しずつ対策を取り入れてみませんか。

更年期は人生の次のステップへ向かう大切な準備期間です。体の声に耳を傾け、この時期を健康で自分らしく過ごせるようにしていきましょう。

 

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【引用】

[5]厚生労働省>成人を対象にした運動プログラム

【参考】

[1]日本肥満学会>肥満症診療ガイドライン 2022 p.37

[2]厚生労働省>健康日本21アクション支援システム>生活習慣病などの情報>栄養・食生活>エネルギー代謝の評価方法>身体活動・運動>身体活動とエネルギー代謝

[3]厚生労働省>健康日本21アクション支援システム>生活習慣病などの情報>栄養・食生活>加齢とエネルギー代謝

[4]厚生労働省>健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023 p.17-18

[5]厚生労働省>成人を対象にした運動プログラム

[6]厚生労働省>健康日本21アクション支援システム>生活習慣病などの情報>休養・こころの健康>睡眠と生活習慣病との深い関係

[7]日置智津子/メタボリックシンドロームに対する防風通聖散の有効性の検討/医療薬学/2008年/34巻/6号 p.515

[8]日本女性医学学会>ホルモン補充療法の正しい理解をするために ホルモン補充療法ガイドラインより

[9]杉野法広/今後のホルモン補充のありかた/山口医学/2004年/53巻/6号 p.261

記事監修

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